玉ねぎペースト。
商品名では「炒め玉ねぎ」と表示されていることが多い玉ねぎペーストのことだ。
少しまえ、ある編集者と打ち合わせをしているときに、「いまのカレーブームのカレーは、以前のカレーとはだいぶちがいますよね、いつごろ変ったのでしょうか」と聞かれた。
「おれの記憶では、札幌のスープカレーが全国レベルで話題になったころではないかとおもう」といったあとに、ナンシー関のばあいはこんなことをいっていますよと、「小さなスナック」(ナンシー関、リリー・フランキー)で読んだことを話した。
そこには、こうある。
リリー あと俺、玉ネギをみじん切りにして、1時間半ぐらいかけて炒める。
ナンシー そのみじん玉ネギっていうのも、常識になったのってある時期以降ですよね。S&BカレーのCMで「玉ネギさん、玉ネギさん、小さく小さくみじん切り」てのが流れてから、ある意味日本のカレーは変わった。私はレトルトで売ってる玉ネギを使っているけど。
この話は、「CREA」02年3月号が初出だ。スープカレーが話題になりはじめたころと重なる。
ナンシー関ってすごいなあとおもうのは、こういうカレーのことでも、観察と洞察ができていて、カレーの核心部分にストレートに切りこんでいることだ。
拙著「汁かけめし快食學」にも書いたが、玉ねぎ炒めがないのが日本で普及したカレーで、「伝来」のカレーとは決定的にちがう。玉ねぎを炒めてコクを出す調理法は日本になかったもので、カレーライスは普及したが、この調理法は普及してなかった。
おれのばあいは、ナンシー関のように、レトルトのペーストを買って使っている。最近は、インスタントのルーを使うことはほとんどない。ペーストとカレー粉と、クミンやらなんやらいろいろな香辛料やセロリーやトマトなどを使い、いろいろな味のカレーをつくる。これが、変化がいろいろたのしめて、すごくおもしろい。
カレーがブームになったのもわかる気がする。自分でつくっているうちにのめりこんで、店営業まで始めたひともいるのだから。
そして、こうしてつくるほど、やっぱり、カレーライスは汁かけめしだよ、とおもうのだった。
それはそうと、「汁かけめし快食學」には、「三層のカレーライス」について書いている。
古い第一層は、調理法と味覚に統一性がない。
第二層は、1950年代中頃からで、インスタントのルーが広がり、ジャガイモ・ニンジン・玉ネギ・肉の定番スタイルが定着する。ここまでは、「黄色いカレーライス」の時代。
そして、第三層なんだが、1964年の東京オリンピックあたりから広がる、「多様化」や「高級化」これは「欧風化」ともいえそうだが、黄色くないカレーライスの普及だ。
となると、今世紀初頭からの変化は四層目ということになる。コーヒーのように「サードウェーブ」といえたほうがカッコイイのに、とおもって、あれこれリクツを考えてみると、第三層は、調理法の変化とはいえない。使っている具材の高級化や多様化ではないか。調理法からすれば、いまの変化を、「サードウェーブ」とみてもいいのではないかな。なーんて、おもったのだった。
ちかごろのカレーブームをけん引している「スパイスカレー」の話を聞くと、玉ねぎ炒め抜きのものも多いようだ。ようするに汁かけめしカレーライスとしては、コクをどうつくるかなのだな。
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