毎日新聞「昨日読んだ文庫」。
9月17日(日曜日)、毎日新聞書評欄の「昨日読んだ文庫」に寄稿したものが掲載になった。絵は、舟橋全二さんです。
「私に料理の構造と機能を気づかせ、忘れられない衝撃と展望をもたらした2冊は中公文庫の現役で、鮮度も衰えていない」と登場するのは、玉村豊男『料理の四面体』と梅棹忠夫『文明の生態史観』だ。
どちらも、1980年代初頭に読んだのだが、『料理の四面体』は鎌倉書房の単行本、『文明の生態史観』は中公叢書だった。それから何度も読んでいる。
『料理の四面体』については、拙著でも『大衆めし 激動の戦後史』など、機会があるたびにプッシュしているが、『文明の生態史観』についてふれるのは、今回が初めてだ。
『ぶっかけめしの悦楽』『汁かけめし快食學』は、『文明の生態史観』に書かれている系譜論と機能論の影響を強く受けていて、その両方の見方をからみあわせながら書いている。
『文明の生態史観』が中公叢書から出たのは1967年で、『料理の四面体』が鎌倉書房から出たのは1980年10月、どちらを先に読んだか覚えていないが、ほとんど同時期に読んだはずだ。
生態史観は1974年9月に中公文庫入りして、いまでも現役だ。すごいなあ、もう古典ですね。四面体のほうは、一時はどうなるかとおもうほど変転があってのち、2010年2月に中公文庫入りした。
料理からみれば、この2冊は、これからのほうが鮮度がよくなるとおもう。
というのも、日本の料理は、もう「和・洋・中」の観念では把握しきれないほどになっていることがある。それから、目的、要素、方法、手段などの組み合わせ(デザイン)で、生活や料理を考える流れが広がっているからだ。
料理や食べ物に関しては、系譜論にもとづく「うまいもの話」「いいもの話」や「職人論」あるいは「属人論」などが、あいかわらず惰性的に続くだろしにぎやかではあるけれど、もっと根本的なところで、系譜論をのりこえる流れも育ってきている。
しかし一方では、系譜論は、いまの日本で、いちばんやっかいな問題を生んでもいる。
『料理の四面体』と『文明の生態史観』が続いている背景には、そういうことがあるだろう。
『文明の生態史観』に収録されている「生態史観からみた日本」には、このようなことが書いている。
(日本の知識人諸氏は)「ほかの国のことが話題になっていても、それ自身としてはあまり興味をおぼえない。自分との比較、あるいは自分自身が直接の話題になったときだけ、心がうごく。あるいはまた、なにごとをいうにも自分を話題の中心にすえないではいられない、ということでしょうか。なんというナルシシズムかと、おどろくのであります」
昨日の「たこつぼ」問題とも関係することだ。系譜論にとりこまれると「たこつぼ」に落ちやすい。
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2017/09/08
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