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2018/04/11

『原発事故と「食」』と『復興に抗する』。

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この2冊は少し前後し同じころに発売になった。『原発事故と「食」』(五十嵐泰正、中公文庫)は2月18日の発行、『復興に抗する』(中田英樹/高村竜平・編、有志舎)は2月10日の発行だ。

おれは両方一緒に買ったが、『復興に抗する』は編者も含め5人の方による共著で本文326ページのボリュームということもあって、厚さからしてとっつきやすい『原発事故と「食」』を先に読了し、このブログでああだこうだ書いていた。その間に、『復興に抗する』も読み進めていたのだが、この2冊を読んで、すいぶん展望が開けた気分になっている。

ま、「気分」だけで、十分理解してないかも知れないのだが、展望が開けた気分ってのは、いいもんだし大事だな。

ようするに、福島をめぐっては、『原発事故と「食」』の帯に「今なお問題をこじらせるものは何か」とある通り、遠くから眺めているだけでも辟易するありさまになっている。そのあたりが、この2冊によって、自分なりの整理がついてきた感じなのだ。

しかし、『復興に抗する』ってタイトル、ちょっと誤解されやすいんじゃないかな。おれはタイトルだけ見たとき、復興に抗う人たちの話しかと思ってしまったもの。

サブタイトルには「地域開発の経験と東日本大震災後の日本」とあるのだが、これ、帯にある「私たちは、どのように「開発」や「復興」を生きるのか?」のほうが、内容に沿っている。その帯には「「復興」の名のもとに、戦後日本のなかで繰り返しあらわれる開発主義と、それでもその場所で今日も明日も生き続けようとする人びとの姿を描き出す」という文もある。そういう本なのだ。

『原発事故と「食」』は、序章と終章を除く全4章のうち、3章のなかばまでは、主に「風評」被害と続く「悪い風化」のなかで福島の生産と販売のこれからが中心的な課題になっている。消費者がどうすべきかは、直接的にはふれられていない。

これは本書が「福島県産品のおかれた現状と打開策」を、原発事故がもたらした他の課題から切り離して追求しているからで、「消費者」としてどうすべきだろう?という思いが残るか、もっと積極的に、どうすればいいんだ、と思う読者もいるのではないかと思う。

一方、『復興に抗する』では、「福島県産品のおかれた現状と打開策」が課題ではない。

そして、第4章「「風評被害」の加害者たち」の「3 同調と「信仰」の共同体の克服へ」では、「汚染とそれによる健康被害をめぐって、とりわけ「消費者」の立場に身を置いたとき、最も汚染の深刻な現場に対して、どのような連帯の方法があるだろうか。これは、なにも原発事故に固有の問題ではない。過去の公害においても存在した、古くて新しい問いである」と述べている。

「環境をめぐってそこで仕事をする生産者と消費者が一体性をもって対応する可能性である」と、ホットスポットになった柏での五十嵐さんたちの「安全・安心の柏産柏消」円卓会議の例なども記されている。

消費者は、「風評被害」の加害者になりやすい。過去の公害や食品をめぐるさまざまなジケンでも、そうだった。福島と水俣の「共通点」をめぐっては、いろいろ議論があって、ここでも石のぶつけあいのようになっているが、カンジンなことは、水俣もそうだしカイワレや牛でも鶏でもあったが、消費社会における消費者は「風評被害」の加害者になりやすいということだ。

なぜそうなってしまうのか。これは「科学的知識」だけの問題ではないだろう。

『原発事故と「食」』では、五十嵐さんは柏の「円卓会議」の活動について、「しっかりと測定を行い、放射能問題に真摯に取り組む地元農業者の姿勢を示すことで、この機にこそ、都市農業地域の柏でかねてより重視されていた生産者と消費者の関係構築が進むのではないか」と話している。

この2冊を読んで思ったのは、「環境をめぐってそこで仕事をする生産者と消費者が一体性をもって対応する可能性」の追求は、まだいろいろあるのじゃないかということだ。

『原発事故と「食」』と『復興に抗する』には、具体例として福島の生産者たちが登場する。汚染された「その場所」で、「放射能問題に真摯に取り組む地元農業者」たちが登場するが、そのようすは、まだ、かなり不十分にしか知られていないし理解もされてない。もともと生産者と消費者の乖離が激しい状況が続いている中で。

そこだ、モンダイは。

と、思ったのだった。

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