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2018/08/20

テクノロジーとエネルギー。

きのうふれた『談 100号記念選集』をパラパラ見ていたら、石毛直道と樺山紘一の対談「ガストロノマドロジー事始め」ってのがあった。

ずいぶん大層なタイトルだが、談の編集長は、こういう学術風のタイトルの付け方が好きなのだな。もっとも『談』という雑誌が、学術ミーハーな雑誌なのだが。

「ガストロノマドロジー」って、なんだ、と思って読んでいくと、ようやっと半分もすぎたあたりであった。石毛さんが、こういっている。

「美食の歴史でガストロノマド、いわゆる美食遍歴というのがありますが、ヨーロッパのレストランの中でもイン(inn)やタバ-ン(tavern)など旅行に関わりのある食事の場所がたくさんあったわけですね」

ということで、どうやら「ガストロノマドロジー」ってのは「美食遍歴学」ってことで、もっと平たくいえば「世界美食ツアー学」てな感じ、といったらよいのかな。

樺山さんは「今は食材の方がツアーしてくるのですが」といっている。

この対談ツアーは、古代から現代、洋の東西にわたっているが、初出は1996年2月発行の『談』53号だから、読んでいると、この20年間の移り変わりを実感する。

とくに世界的に見ても、いわゆる「エスニック料理」の台頭が、その地域の経済発展と共に盛んになったわけだけども、この対談の段階では、まだフランス料理と中国料理が軸になっている。

でも、変わっていないこともあるわけで、日本料理に関する、こんな話しなんか。

石毛 (略)それから素材のおいしさをそのまま出すこと。もちろん日本料理も人工だけども、その人工性をなるべく表に出さないようにする。その意味で、日本料理は反文化的な料理のわけです。

樺山 前文化的というか。

石毛 でもそれはぜいたくな料理なんです。

(略)

石毛 結局、日本の料理というのは野蛮なんですよ。その野蛮さを洗練化した。(略)

なかなかおもしろいのだなあ。「野蛮さを洗練化した」

この場合の洗練化とは様式化とイコールだと見てよいだろう。野蛮さを捨てないで洗練化する。おれは野暮を捨てないで洗練させたいと思っているのだが。

樺山さんが、魯山人の美について「あれは苦行的、閉鎖的な美の体系でしょう。通でないとわからない食味だとか料理術だとか、閉じ込められた集団の中でもって食の美があるというのは、むしろ明治以降の東京には合いやすい考え方ですね」といっているのが、おもしろい。

これは、「東京」というより、東京の中央の文化といえるだろうなあ。エラそうで閉鎖的で抑圧的である、それは日本の中央文化の特徴で、そういう「美の体系」は、出版業界あたりでは「文学」と共に、なかなか威力を持っているんじゃないですかね。ま、だいぶ衰弱がすすんでいるようではあるけれど。

そりゃそうと、「食とセックス」ってことで、こんなことをいっている。

樺山 そうですね。(日本人は)実質はおとなしい食生活、おとなしい性生活をやっているんだと思いますね。聞けば日本人はラブホテルで若いカップルでもシャワーを浴びてからセックスをするという。ヨーロッパ人は違う。やはり臭いが残っていないと、食欲がわかないということですかね。(略)

石毛 その代わりというか、一方で日本人の性に対するテクノロジーというのは、向うの連中から言わせたらものすごいものがある。

樺山 こちらテクノロジー、あちらエネルギーという気がしますね。

石毛 それは的確な言い方だと思いますね。だいたい日本人全体がそうなんですよ。

樺山 身も蓋もないけれども、こちらはエネルギーがないからテクノロジーでやっている。食だってそうですよ。彼らは基本的にたくさん食べますよね。というか、たくさん食べることに出発点がある。

石毛 たくさん食べて、そしてセックスもと。常にパラレルになっている。

といった話をしながら、対談は終わりに近づいていく。

石毛 (略)食と同様、性につても、今までの延長線上ではなく、もしちゃんとやるつもりなら、やはりフィールドワークをしなければならない。(略)ある程度の体験をもっていないと、筆力がついていかない。

樺山 そうですね。しかしこれはよっぽど若くして始めないとだめですね。

石毛 耳年増の性の話なんていうのはね。

樺山 もういくつも聞いたけど聞き飽きました。

石毛 年齢の問題があって、もう私の歳ではちょっと無理ですね。

樺山 気がつくのが遅かった。

石毛 先に性からやればよかった(笑)。

これでオワリ。なんですか、これ。
ま、学術的な話だからといって気取ることはないけどね。
おやじの愚痴で終わる「ガストロノマドロジー事始め」でした。

石毛直道 1937年生まれ。
樺山紘一 1941年生まれ。
おれ    1943年生まれ。

若者よ、気取るな、発情したまま丼飯を食らえ。

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