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2018/11/27

最高のカツ丼。

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おおっ。

このカツ丼を見た瞬間、声が出そうだった。

これまでも、いろいろなカツ丼の盛り付けを見てきたが、ここまで大胆な破壊はなかった。

カツの切れはあちゃこちゃの方角を向き、玉子はトジになっておらず、ひからびたようにカツの切れにからみついている。

丼物をつくる片手のついた薄い小鍋に、だしとカツと野菜を入れ煮る。ほどよきところで溶いた玉子をかけまわしフタをする。玉子が固まらないうちに、丼めしの上に移す。と、だが、玉子をかけまわしたのち、ほかの何かをしていて忘れたのか、水分はとんでしまった。玉子は鍋にへばりついてしまったところもあったにちがいない。それを丼めしの上に移すとなると、スームースには移動しない。

あちゃちゃちゃ、箸でへばりついたところをはがしながら、えーい、おとなしくめしの上にのらないか、てめえはそんなに食べられたくないのか、この世に未練があるのかとばかり、グイグイとめしに移す。

そんな感じを思い浮かべた。

すごいなあ。いいだろう、これだってカツ丼だ。

ってことで、食べた。汁気がないのがチョイとさみしかったが、カツはいい肉だし、チューハイを飲みながらだったので、よいつまみにもなった。

この食堂、このときは婆さんが三人でやっていた。

客席を担当するのは、この店の主と思われる150センチぐらいの小柄の女性で、八〇歳ぐらい。厨房で、このカツ丼をつくるなど料理を担当しているのは七五歳前後といったところでおれと同じぐらい。もう一人は洗いの担当らしい、やはり八〇歳ぐらいだろう、あごが調理台にぶつかりそうなほど腰が曲がっていた。なかなか気が合っているようだが、動作は、三人ともゆるゆるだ。だから、うまくいっているのだろう。

午後二時近く、客は、おれのほかに六人ほどいたが、みな心得ているらしく、ゆるゆるしている。

カレーライスを頼んだのは、二人で入ってきた、郵便配達の人だったが、カレーライスにしては、ずいぶん時間がかかってから出てきた。そのあいだ、郵便配達の一人は先にいた男性一人客と顔なじみらしく、あの人はどうしているとか、茶を飲みながら話していた。

以前通りがかかりにフラッと入ったことがあって、その時は、何かおかずとビールですました。夕方だったので、勤め帰りの近所の常連らしい客たちが、飲み食いしながら言葉をかわしていた。なかなかいい感じだったので、そのうち東京新聞の連載「エンテツさんの大衆食堂ランチ」で紹介させてもらおうかなあと思い、また行ってみたのだった。

ほんとうは、こういうカツ丼の写真を載せて、しっかりウンチクを傾けたいところだが、どうしたものか迷っている。これを受け入れてもらえるだろうかという心配がある。それに、食堂の人も、新聞に載せる写真なら、もっと別なものをと思われるかもしれない。

いつだったか、サバ味噌煮の写真を載せたとき、皿に盛られて出てきたのが尾の部分だったので、それを撮って載せたら、食堂の店主に載せるんだったら「腹」のほうにしたのにといわれたことがある。

実際には、尾の部分も同じ値段で食べられているわけだが、メディアにのる写真となると、やはり多少なりとも「演出」が必要。ということはわからなくはないが、そういうことが繰り返されるているうちに、しだいに「よしあし」の基準が偏ってきたということがあるような気がする。

どんな盛り付けでも、しっかり受け止めて楽しんで食べる。そういうことが、もっとあってもいいんじゃないか。

そりゃそうと、この食堂のチューハイがまたすごい盛りだった。

四〇〇円で、グラスの焼酎とサワーの瓶が出てくる。その焼酎が二杯分はあるのだ。

「焼酎、多すぎじゃないの」

とおれが言うと、客席担当のお婆さんは、「ぐふふ」という感じで笑って、「多いほうがいいでしょ、サワーの瓶一本あけるには、焼酎がこれぐらいないとね。お得でしょ。焼酎をコップに移して、つぎ足しながら飲むのよ」と言った。

この食堂は、そもそも大雑把が好みなのかもしれない、カツ丼もいつもああなのかもしれない、また来て確かめてみようと思ったのだった。

こんな食堂があると、なんだか気分が晴れ晴れするね。ほんと、飲食なんか、それぞれ勝手に楽しみたいように楽しめばいいのよ。

いや、まあ、よりおいしくというのはよいとして、いろいろあって普通なのだということにしてもらわないと、解放的なはずの飲食が、しちめんどうなことになっている。

そういう傾向に対しても、このカツ丼は破壊的で痛快だった。だから、「最高のカツ丼」。

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