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2019/02/25

景気のよさの実感はないが、TPP11発効後に目に見えて変わったこと。

TPP11は、大騒ぎしたのかしないのか、とにかく昨年末のどんずまりの30日に発効になった。まもなく2か月になるのだが、よく利用するスーパーの肉売り場の安売り攻勢がすごい。こんなに目に見えて変わるとは思っていなかったから、おどろいている。日本の農業や食糧生産は、ほんとうに大変なことになるな、と、スーパーの店頭で実感する日々だ。

肉については、当面直接的にはオーストリア産とカナダ産だけの影響だと思っていたら、その輸入増が輸入肉相場全体を押し下げているのだろうか、アメリカ産やスペイン産まで安くなっている。

おれがよく利用するスーパーは、おれが「C」クラスと「Cマイナス」に分類する、ようするに価格帯から見て中以下になる。そのどちらも、肉売り場を拡充した。

うちも今年になってから、肉をよく買っている。鶏肉以外の豚や牛は、輸入物だ。きのうもきょうも買った。安いから、つい手が出てしまう。国産を買わなくなるだけでなく、魚まで買う回数が少なくなっている気がする。

「民主主義の破壊者」といわれそうだが、そもそも「C」クラスや「Cマイナス」で買い物しているのは、金銭的にあまり余裕がなく、選択肢が絞られているからだ。買い物を選ぶことで、よい文化や政治が選べるなんて、そういう人たちはどれぐらいいるのだろうか。ま、中央のメディアあたりに登場するような、「A」「B」クラスのスーパーで買い物ができる人たち中心の見方や考え方じゃないだろうか。

と、いつもは外食をめぐる「コスパ思想」を批判するおれは、このザマだ。

先月末、吉祥寺のトークへ行って、2019/01/27「川原真由美「山と地図となにか」展×若菜晃子トーク。」に「吉祥寺、とおーい。距離的にも文化的にも。」と書いたが、その文化は経済が大いに関係しているのであり、経済のギャップが文化のギャップにおよぼす影響は、かなり大きくなっている。

おそらく、東京や中央からは、見えにくいことだろう。東京や、そこでつくられるメディアでは、「C」クラスや「Cマイナス」は、とてもいい話ばかりの「A」「B」クラスのイメージのなかに埋没してしまう。

きのうちょっとだけふれた「書物が×物になる」は、「可処分所得と可処分時間をめぐる熾烈な、しかし見えないところで、争奪戦がくりひろげられている」ことが関係する。

大澤聡は、1933年春秋社から刊行の「経済学者ながら歌人でもあり文芸状況に通暁していた大熊信行」が著した『文学のための経済学』と、それに加筆され1974年に潮出版社から刊行の『芸術経済学』から引用しながら、論をすすめる。

『芸術経済学』は、発行直後ぐらいにおれも読んだ。おれの周囲のマーケティング屋のあいだでは、チョイと話題になっていた。

大澤は大熊にならって「あらゆるジャンルが無慈悲なまでに横並びの選択肢と化す市場において、文学が特権性を帯びる理由はなんら存在しない。上位概念である読書もおなじこと」と指摘する。

食品は、もともと「物」だし、それが国産であるかどうかで「特権性」や「上位概念」を獲得していたことはあったとしても、昨今は状況がちがってきている。それは、「書物が×物になる」 のと同じ状況なのだ。

その状況を認識しないで、正しそうなことをいわれたり、特権性や上位概念に寄り掛かったようなことをいわれても、その言葉はむなしいだけなのだな。その言葉や様式が、美しければ美しいほど、むなしさが増す。クソクラエなのだ。

「いいモノ」食ってりゃ幸せか? ってことだね。

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