東京新聞連載「エンテツさんの大衆食堂ランチ」84回目、駒込・伏見家。
またもや遅れてしまったが、先月20日朝刊に掲載のものだ。すでに東京新聞のサイトでご覧いただける。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyoguide/gourmet/lunch/CK2019092002000218.html
染井銀座商店街の伏見家への最寄り駅は3つある。地下鉄南北線西ヶ原駅とJR京浜東北線上中里駅とJR山手線駒込駅だ。
おれは、さいたま市に住んでいるので、所要時間の少ない上中里駅を利用することが多い。駅から平塚神社の境内をぬけ、本郷通りを渡り、古河庭園の裏側の細い道を下る。木立の多い人通りが少ない静かな道をフラフラ行くのだが、このコースのよいところは、地形がわかることだ。平塚神社は武蔵野台地の突端にあるし、古河庭園も台地の上で、その裏の道はゆるい下り坂になっている。その坂を下り終えるあたりに、染井銀座商店街があり伏見家があるというわけだ。
染井銀座は、かつては台地の谷底の川だったところにあるのだ。「川の東京学」的には、荒川水系一級河川石神井川の下流域に位置する谷田川ということになるようで、昭和の初めごろ暗渠になり、街が形成された。ということらしい。
谷田川の暗渠は、染井銀座と隣接する霜降銀座をのせ、駒込駅近くを通り、田端銀座商店街へつながる。田端銀座をぬけると、動坂下の動坂食堂の近くを通り、千駄木谷中界隈にいたる。
台地側では豪邸や神社などは台地の上にあり、いわゆる「庶民的」な街と商店街は谷底にあり、いい大衆食堂は台地の中腹から谷底に残っている。という川の東京学的仮説は、それなりに根拠がありそうだ。
とにかく、染井銀座も霜降銀座も田端銀座も、生活感あふれる、いい商店街だ。いわゆる「ファッション性」は低めだし地味ではあるけど、消費力より生活力が感じられる。
「伏見家でめしを食べよう」というときは、あえて駒込駅から霜降銀座を抜け染井銀座に入る。この二つの商店街はつながっていて、そこに漂う、音や匂いや気配などを肉体で感じるのは、食欲のためにもいい。
霜降銀座は、昔の建物まま営業している店が多い。青果、精肉、鮮魚、日用品などが中心だ。染井銀座も同じような店が並んでいるけど、3階か4階の建物が増えている感じだ。イマ風の店もポツポツできている。でも、昔ながらの時計店が複数あるのは珍しいのではないだろうか。
伏見家の隣も時計店だ。「銘技堂」という、どんな時計も修理してくれる「時計職人」という言葉が生きていそうな店名だ。
伏見家は、サクッとした簡素な佇まいだ。見たままの、いい食堂だ。
偶然だが、ちょうど10年前、2009年10月に撮影の画像があった。外に貼ってあるメニューを見比べてみよう。
10年前→肉野菜炒め定食620円、あじフライ定食620円、さば塩焼定食650円、さんまあみ焼定食700円、白身魚フライ定食720円、チキンかつ定食720円、盛り合わせ定食750円、茄子とひき肉の味噌炒め定食750円、しょうが焼定食770円、焼肉定食770円、メンチかつ定食770円、ハンバーグ定食800円、ロースかつ定食850円。
今回→野菜炒め定食640円、あじフライ定食640円、鮭塩焼定食670円、さば塩焼定食670円、ハムエッグ定食670円、チキンかつ定食740円、クリームコロッケ定食750円、スタミナ定食770円、白身魚フライ定食、茄子と豚肉しょうが焼定食770円、焼肉定食790円、ロース肉しょうが焼定食790円、メンチかつ定食790円、デミグラ・ハンバーグ定食(片目焼付)820円、ミックスフライ定食850円、ロースかつ定食870円
20円の値上がりは、2014年4月から消費税8%の影響か。今回は、10月1日から10%の前なので、どうなっているかわからない。8%のとき、こきざみに10%にしようという政府の悪い魂胆を読み込んで値段を変えたところもあった。
暑さが厳しい日だった。おれは店内のメニューにあった、照り焼きおろしハンバーグ定食820円にした。ボリュームだけでなく、ソースの味と照り焼きの加減もよかった。外観からは、そういう感じではないが、いい味わいだった。
10年前にはなかったメニューにビーフカレー750円がある。それに、10年前には、ただの「ハンバーグ定食」だったが、今回は「デミグラ・ハンバーグ定食」だ。
「牛」の充実は輸入牛の影響か、商店街の客筋が若返っている感じもあるし、それとも料理をする大将の関心や好みのあらわれか。10年前と比べ、メニュー全体も脂系が強調されている感じだ。
そうそう、この連載は、この84回で、7年を経過した。
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