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2020/03/03

「生活工芸」。「鑑賞料理」と「伝統料理」そして「生活料理」。

次の本の原稿に取りかかっているのだが、今度のテーマは資料がたくさんありそうでいて少ない。そこが、面白くもあり、考えることが多い。

とうぜん「生活料理」がらみのことで、ネットでもあれこれ検索していたら、「生活工芸」という言葉にぶちあたった。知らんかったなあ。でも、この言葉、割と新しいのだ。

「やまほん」のWEBサイトに、ギャラリーやまほんで行われたトークイベントの書きおこしが載っているのだが、そのタイトルが「生活工芸の思想」だ。
http://www.gallery-yamahon.com/talkevent/seikatsutalk1

このトークイベント、いつ行われたのか記載がないのでわからないのだが、2017年からこちらのことらしい。

「1. 言葉の誕生とその背景 安藤雅信 辻和美 三谷龍二」「2. 生活工芸とは 川合優 安永正臣」「3. 器とオブジェ 内田鋼一 三谷龍二」「4. 工芸と社会の関わり 菅野康晴(工芸青花)森岡督行(森岡書店)」「5. 生活工芸のこれから 安藤雅信 内田鋼一 辻和美」というぐあいで、4回にわかれている。

その1回目を見ると、「生活工芸という言葉は、辻和美さんがディレクションをされて2010年に金沢で開催された「生活工芸展」から始まっています」とある。

そして辻和美さんは、「つまり金沢においては、生活工芸という言葉は、鑑賞工芸、伝統工芸と区別するための言葉として分かりやすかったようです。自己表現のための工芸、素材の可能性に挑戦する工芸というより、人間の生活を中心に考えられた道具を中心としたモノたち、そういうものとして一般の方に認識されやすい。そういうスタートで生活工芸という名前を使い始めました」と語っている。

金沢ローカルで始まったということも面白いし、2回目以降のトークでは登壇者が入れ替わりながら、生活工芸の思想が深められていき、最後のまとめらしきところで、安藤雅信さんが「その時代時代に問題を見つけてそれを解決していく」「ボブ・ディランのように70歳過ぎても常に戦っていきたいと思うんですけれども、社会に対して常に問題提起をし、自分なりの答えを提案し続ける。それをやっていくことが生活に寄り添う工芸ということではないかと思います」とのべていて、多いに共感するところがあった。

ようするに、生活の問題を解決するのが生活工芸の思想である、と読めた。これは、おれの生活料理の思想と重なるところがあると思った。それに、メディアの権威に頼って仕事している人物が、浅はかな知識でエラそうに定義し意味づけするのではなく、「共通点を探していくことで生活工芸の輪郭が見えてくる」という方法も共感できる。

昨日のエントリー「気分」は続く。今日の日常。」と、その前の「ただよう「気分」と「言葉」。」で書いた、「気分」な文学や飲食とは、えらいちがいだ。

そういうわけで、またもや小便をチビリそうにコーフンしながら、「鑑賞工芸」を「鑑賞料理」に置き換え、「伝統工芸」を「伝統料理」に置き換えて考えてみた。「伝統料理」という言葉は、以前からあるのだが、「工芸」と「料理」は、共通するところと異なるところがあるから、そのあたりから考えが広まるのも、面白い。

「鑑賞料理」は、いわゆる「気分=趣味」のグルメや飲食のための料理と重なるところが多いようだ。

しかし、問題は「生活」という言葉だろうなあ。「生活」は抽象だから、けっこう複雑で、複雑ということは多様で、いろいろな要素や要件がからむ。だからこそ、「共通点を探していくことで輪郭が見えてくる」という方法が必要なのだが。

この「生活工芸」の作品に見られる「生活」は、おれの考える「生活」とはチョイとイメージがちがうような「気分」も残った。そのあたりは、おれのなかの「生活」という概念の幅の問題なのだろう。

とにかく、「生活工芸」と「生活料理」、面白い。ようするに「業界」の外、社会や歴史や自然などに対して、どういうテーマと方法で臨むかなのだ。この、問題の多い時代に。

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