芋サラダ。
「ポテトサラダ」のことを「芋サラダ」というのは、古い大衆酒場や大衆食堂でよくあったことだし、いまでも少しは残っている。
たいがい、おれのような下世話な人間が安住する世間のことだと思っていた。
ところが、阿川弘之の『食味風々録』(新潮社、2001年)を読んでいたら、このような記述があった。
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昭和三十年前後、銀座ローマイヤの各種ソーセージ、アイスバイン、芋サラダ、酢キャベツなど、ドイツ風の食品が未だすこぶる佳味珍味とされてゐた頃、店の前を通りかかったら、吉田さんがガラスケースの中を、一心に、傍目もふらず眺め入ってゐた。
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「吉田さん」とは吉田健一のことだが、この書き方からは、銀座ローマイヤが「芋サラダ」と表記していたのか、阿川がポテトサラダを「芋サラダ」と表記したのかは判断できないが、どのみち、おれなんかとは、とくに、昭和30年前後などは、まったく縁のない高級な方面の街や店や人たちのことであり、「芋サラダ」という言い方は「格差」をこえて使われていたのか気になった。
ま、ジャガイモ料理や酢キャベツなどは、ドイツでは、下世話な料理だったには違いないが。国がかわれば「佳味珍味」となる。
それはともかく、「芋サラダ」という言い方、「芋」のぬくもりが伝わるようで、いい。
だけど、「芋」は、「芋侍」とか「芋野郎」とか、侮蔑的な用いられ方がされてきた歴史もある。
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