びっくりして、ひっくり返りそうになった。
2003年に早川書房から単行本で発行され、2010年にハヤカワ文庫になった、『食べる人類誌』(フェリペ・フェルナンデス=アルメスト・著、小田切勝子・訳)は、「火の発見からファーストフードの蔓延まで」という壮大なサブタイトルがついている。
だけど、いろいろ悩ましい記述も少なくない。
日本がらみでは、「格調高い料理の極致は、たぶん懐石料理だろう。皇室をもつ日本の伝統が生んだ優雅な料理である」というのだ。
読んでみると、いわゆる「わび茶」の流れの懐石料理と、それが決別したはずの朝廷や貴族たちの本膳料理の流れがごちゃまぜになっている感じだ。
それはまあ、料理にかかわる仕事をしている日本人だって、日本料理と懐石料理については、誤解は少なくないのだから、仕方がないかもしれない。権威争いや正統争いもあって、言説入り乱れややこしく、おれだって正確に理解しているかどうか。
だから、それは知らん顔するとして、つぎの記述には、びっくりして、ひっくり返りそうになった。
・・・・・・・
この伝統につらなる食事では、盛大な宴会と同じくらいの――より繊細ではあるが――肉体的快楽を得ることができる。辻静雄は大阪で調理師学校を経営していることで有名だが、彼のような偉大な料理人は、食卓にだす魚を「娘盛りの若い女性」のような舌触りをもつかどうかで選ぶことができる。
・・・・・・・
この魚は、おそらく鮎のことではないかと思われるが。それにしても。
悩ましい。
解説の小泉武夫によると、著者は、「英国人の歴史家で、とりわけ人類の文明史の研究においては、世界的に知られた学者」なのだそうだ。
いやはや。
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